みなさんは「ホヤ」という生物を知っていますか? ホヤは海の生き物で、岩や海底にくっついて生活しています。お刺身などで食べたことのある方もいるかもしれません。
実はホヤが人間に非常に近縁な生物である、ということを知っている人はいるでしょうか?
ホヤは「尾索動物」というグループに属し、進化の系統樹で言うと人間が属する「脊椎動物」の少し手前に位置しています。
そのため脊椎動物とホヤは様々な共通点を持っています。一方でホヤは脊椎動物と比較して非常に体の構造がシンプルです。
つまり、脊椎動物の体内で起こっている複雑なメカニズムを、ホヤのシンプルな体に落とし込むことで明らかにすることができる可能性が高いということです!
このように研究に適しているホヤという生物について、本サイトを通して少しでも理解を深めていただければ幸いです。
ホヤ(特にカタユウレイボヤ)では、孵化後に重要な発生過程-幼生神経組織の成熟、遊泳行動を司る尾部の吸収-を経ます。
この過程は「変態」と呼ばれ、ホヤが成体になるための準備期間です。ホヤの変態は主に以下の5つの過程に分けられます。
1.付着器による固着、2.尾部のアポトーシス退化と吸収、3.被嚢の脱皮、4.体軸回転、そして5.成体器官の分化です。
孵化後ホヤ幼生の発生過程を詳しく描写することは、幼生器官のアポトーシス(=制御された細胞死の一種)や成体器官の起源を理解する上でとても重要ですが、
今まで細胞レベルでの時空間的描写はされてきませんでした。
そこで、これまでに当研究室では、ホヤの発生過程を通した3次元画像および断面画像を描写したFour-dimensional Ascidian Body Atlas
(引用元論文:Hotta et al.,2007)
と呼ばれるカタユウレイボヤの発生の標準となるデータベースを構築しました。
これらの画像は、Alexa蛍光ファロイジンで染色したホヤのF-アクチンを共焦点レーザー走査顕微鏡(CLSM)で可視化し、3000枚以上の画像を再構築することで得られたものです。
FABAでは受精卵から孵化後幼生までを新たに26ステージに定義しました。
本研究では、さらにカタユウレイボヤの孵化後の細胞の時空間的形態変化を明らかにし、網羅的な解剖学的オントロジーを作製するために、後期の発生ステージ(受精後17.5時間幼生~受精後7日幼若体)についてFABAと同様の方法を適用しました。
今までのところ、実体顕微鏡によるタイムラプスイメージングを行い、そのイメージと共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で得られた画像を31ステージに対応させています。
これらのデータを使うことで、幼若体までホヤの発生を1細胞/組織レベルで追跡することが可能になります。
この研究はカタユウレイボヤの発生と解剖学のオントロジーの標準データベースとして、細胞生物学のいくつかの機能研究のガイドラインを設けることに役立つと考えています。
カタユウレイボヤCiona intestinalisは、私たち脊椎動物に近縁なグループである、尾索動物亜門に属する単体ボヤの一種で、進化・発生・生態学においてモデル動物として広く知られています。
近年、Ciona intestinalisとして扱われていた生物の中に2つの型があることが示されました。その後分類学の研究において、Ciona intestinalis type AをCiona robusta、Ciona intestinalis type BをCiona intestinalisと学名を変更することが提案されました。
その一方、幼生および成体について、解剖学的観点からtype Aとtype Bの間の違いがほとんどないことも報告されています。
2015年までの研究においてはCiona intestinalis type A(現Ciona robusta)と、Ciona intestinalis type B(現Ciona intestinalis)は区別されないまま用いられてきました。
このような背景から、本データベースで使用したサンプルはCiona intestinalis type A(現Ciona robusta)ですが、Ciona intestinalis type B(現Ciona intestinalis)についても同様にあてはまります。当サイトで用いる「カタユウレイボヤ」という語は両方の種を包括して指しています。